1票の格差訴訟②〜広島高裁、広島高裁松江支部で選挙無効判決要旨から〜
昨年12月の衆議院選挙の無効を争った裁判の判決が出揃った。16の裁判のうち、現行区割りが違憲との判断を下したのが14高裁・支部、違憲状態との判断を下したのが2高裁となった。選挙無効については、14高裁・支部で選挙無効の訴えを認めなかったものの、広島高裁(対象は広島1,2区)は期限付き無効、広島高裁岡山支部(対象は岡山2区)は無効の判断を下した。
区割りの違憲判断のうえ、選挙無効にまで踏み込んだ両裁判所の判断は極めて厳しい。以下は沖縄タイムスに掲載されて両判決要旨からの抜粋である。
判断内容 | 広島高裁 | 広島高裁岡山支 |
区割り是正の放置について | 本件選挙は憲法上要求される合理的期間内に区割り規定の是正がされず、憲法の投票価値の平等要求に反する状態が悪化の一途をたどっている状況下で施行され、選挙権の制約に伴って生じている民主的政治過程のゆがみの程度は重大。最高裁判所の違憲審査権も軽視されていると言わざるを得ない。 | 国会は遅くとも11年の最高裁大法廷が言い渡されたときには、区割り規定が違憲状態にあると認識できた。判決から選挙までの634日の期間は・・区割り規定や選挙制度を改定するための合理的な期間として不十分であったとは到底いえない。・・選挙までに改定された選挙区割りを作成し、これに基づき選挙を施行しなかったことは、国会の怠慢であり、司法の判断に対する甚だしい軽視というほかない。 |
事情判決の法理の適用 | もはや憲法上許されるべきではない事態に至っていると認めるのが相当だ。一般的な法の基本原則を適用し、事情判決をするのは相当ではないから、無効と断ぜざるを得ない。 | 無効判決が確定した一部の選挙区における選挙のみ無効とされ、他の選挙区はそのまま有効とされる結果、区割り規定などの改定を含むその後の衆院の活動は、選挙を無効とされた選挙区選出の議員が選出されないままで行われることになる。しかし、投票価値の平等は最も重要な基準とされるべきで、無効判決が確定した選挙区での効力についてのみ失効することを考慮すると、長期にわたって投票価値の平等に反する状態を認容することの弊害に比べ、無効と判断することによる政治的混乱が大きいとはいえない。 よって、・・事情判決の法理を適用することは相当ではない。 |
将来判決効 | 将来判決効は憲法の投票価値の平等の要求に反している状態の是正を、憲法の予定しない事態を現出させることなく行うための司法権の行使にほかならない。・・区画審は・・12年11月26日以降、是正法に基づく区割りの改定作業を開始・・。選挙の無効を1年以上の長期にわたって放置することは・・適切でない。よって、本件選挙の無効効果は13年11月26日の経過後にはじめて発生することにするのが相当。 |
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いずれの判決も2011年の最高裁判決により現行の区割りが違憲状態にあることを認識しながら是正措置を講じなかった国会の責任を指摘し、しかも、その姿勢について、広島高裁は「最高裁判所の違憲審査権も軽視されていると言わざるを得ない。」と、同岡山支部は「司法の判断に対する甚だしい軽視というほかない。」と厳しく非難している。国会が憲法尊重義務を果たしていないと、厳しく指摘している。
そのうえで、選挙無効の判断を下しているのだが、是正のあり方について考慮した結果、広島高裁が是正期間を設け、選挙の無効は当該期間の経過をもって効力を発生させるとしたのに対して、同岡山支部は違憲状態を放置すること自体の弊害の方が大きいと判断し、事情判決の法理はもちろん、将来判決効についても採用しなかった。
昨年12月の衆院選挙について、野田前首相は、現行区割りが違憲状態にあるとの最高裁判決について、首相の解散権を縛るものではない、と発言した。司法軽視も甚だしいとと感じたが、両判決とも、このような違憲状態を放置しつづける国会の姿勢に危機感をいだいた結果の判決といえると思う。