あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゃゆゅよらりるれろわ・を・んアイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤャユュヨララリルレロワ・ヲ・ン

  ぼくは ずっと守りたい

紅いサンゴのイヤリングにつけて 広い海原自由に泳ぐ

澄んだひとみの君の夢を

ぼくは ずっと守りたい

青いサンゴを身につけて 荒波の海原を果敢に進む

きらめくひとみの君の夢を

ぼくは きっと守りたい

碧(みどり)のサンゴを身につけて 広い海原を自由に泳ぐ

静かにほほ笑む君の夢を

ぼくは ずっと守りたい

君のむねの 小さなすきまから 青いサンゴが顔をのぞかせ そっと笑顔をみせてくれる 君はやっぱ可愛いから

そんなやさしい君の夢を

ぼくは きっと守りたい 

みじかい髪も 短いスカートも 君の笑顔もすてきだから

君の手に触れながら ぼくは ずっと ずっと守りたい

また君に恋してる

朝露が招く 光を浴びて
はじめてのように ふれる頬
てのひらに伝う 君の寝息に
過ぎてきた時が 報われる
いつか風が 散らした花も
季節巡り 色をつけるよ
また君に恋してる いままでよりも深く
また君を好きになれる 心から

若かっただけで 許された罪
残った傷にも 陽が滲む
幸せの意味に 戸惑うときも
ふたりは気持ちを つないでた
いつか雨に 失くした空も
涙ふけば 虹も架かるよ
また君に恋してる いままでよりも深く
また君を好きになれる 心から

会うたびに君は

2019-08-14

 子育てから開放されようとしている今、小椋佳の生前葬コンサートを視た。息子たちが懸命に白球を追っていた日々を思い出す。そのときにこの曲はぴったりだ。 

  逢うたびに君は

いたいげな眼差し 投げ続ける君は

ひたむきな心を 隠そうともしない

変わらない憧れを背中に映し 会うたびに 君は美しくなる

限りなく青臭い君の夢を 裸になって抱き 抱きしめたい

移ろいの多さに かすり傷を恐れ

誰となく心に 壁を立てる中で

陰りない輝きを背中に映し 会うたびに 君は美しくなる

ためらいも 疑いも 君の夢に 地平超えて飛び 飛び散ってく

気負わずに熱い 君の足音が弾む

爽やかに熱い 君の歌声が響く

変わらない憧れを背中に映し 会うたびに 君は美しくなる

限りなく青臭い君の夢を 裸になって抱き 抱きしめたい

気負わずに熱い 君の足音が弾む

爽やかに熱い 君の歌声が響く

たった一人のあなたのじぶん

2019-05-09

     たった一人のあなたのじぶん

 

 家族の前にいるときも

 業(なりわい)の客の前にいるときも

 友とのたわむれの中にいるときも

 たった一人のあなたのじぶん

 

 おおいつくした仮面(マスク)を取り去り

 まとわりついたよろいを脱ぎ去り

 見えてくるのは

 たった一人のあなたのじぶん

 

 取り繕うことばがじぶんを傷つけ

 身を守るはずのことばがじぶんを傷つける

 どんなにうまく騙しても じっとこちらを見つめている

 たった一人のあなたのじぶん

あなたが傍(そば)にいるだけで

2014-10-19

    あなたが傍(そば)にいるだけで

 あなたが傍にいるだけで わたしの心は高なるのです

 あなたが傍にいるだけで わたしの心は満たされるのです

 わたしの思いよ、あなたに届け。それだけで わたしの心は満たされるのです

 あなたの笑顔に出会うたびに わたしの心はふるえるのです

 小さなえくぼが わたしのほほ笑むたびに わたしの心は満たされるのです

 わたしの思いよ、あなたに届け。それだけで わたしの心は満たされるのです

  昔、琉球の北のはずれに村があった。村人は田畑を耕し、漁をして活(い)きていた。けして裕福とは言えなかったがその暮らしぶりは仕合せそうだった。

  ある日、その村にそれまで見たことの無い鳥が舞い降りた。ミサゴである。 

  この鳥、主に海岸線に生息する。水面をゆっくりと低空飛行し獲物を探す。春・秋の渡りの季節には東北あたりでも観察されることがあるという。食性は肉食。獲物を見つけると素早く翼を羽ばたかせて空中に静止する。その後に獲物めがけて急降下し、水面近くで脚を伸ばし両足で獲物を捕らえる。名前の由来は様々な説がある。「水を探る(みずをさぐる)」が転じたとする説や、獲物を捕らえる時の水音が由来とする説等がある。

 村に舞い降り、海岸線の松木立のてっぺんにいるミサゴが「ぴよぴよ」と鳴いている。その声は優しい。優しい声に魅かれて村人が振り向くと、その口から光るものがこぼれ落ちてくる。村人が近づいてみると、それは金(きん)だった。おどろいた村人は、喜んで拾い集めた。

 やがて「ぴよぴよ」の鳴き声は大きく村中に鳴り響いた。多くの村人が集まり、競って金を拾い集めた。

 貧しかった村はしだいに豊かになっていった。

 田畑を耕し、漁を生業としていた村人たちは、拾った金が無くなるとミサゴの下に出向き金を拾うようになった。

 やがて、ミサゴの口からこぼれ落ちるものは金から銀に代わった。それでも村の豊かなにぎわいは変わらなかった。やがて、銀は銅になり、銅はやがて鉄になった。

2011-06-10

 梅雨明け(6.9)の日に、私の事務所に珍客があった。スーサー(イソヒヨドリ)である。玄関先で盛んに鳴き声を上げている。事務所の中にまで入ってきそうな勢いだったが、私と目が合うと駐車場の方に向かった。急いでカメラを手に外に出てみると、門扉の上であたりを伺っている。

 しばらくあたりを伺っていたが、飛び立ち、隣とのブロック塀の上に飛び移った。よく見ると、ブロック塀には雛がいる。きっと、巣立ちをしたのはいいが、雛の姿を見失い、事務所先まで探しにきたに違いない。

 ブロック塀にうえに立つ雛の姿は、親鳥の心配をよそに凛としている。親子は互いを確認した。雛はうれしそうに、見てくれとばかりに飛び上がった。

 親鳥が見守る中、雛は何度も飛び上がる。ブロック塀から立木へ、そしてまた隣の立木へと飛び移っていく。心配そうに声をかける親鳥。

 子供の巣立ち。どこの世界でも、親は、どきどきしながら見守るしかないようだ。

 昼食を摂るために、コーヒーショップに入った。 ブレンドコーヒーとホットドッグを注文した私は、窓際の席へ。食事をしながら窓の外を行き交う人たちを観ていると、時々、食事をしている私の姿を凝視しながら通り過ぎる人がいる。目が合うと、どちらともなく目をそらすのだが、その時、ふと思った。

 「どちらが見世物になっているのだろう?」

 せっかく東京に来たのだからと街の風景を見ながら食事をしいている私にとっては、道行く人は風景の一部であり、道行く人は見世物である。

 一方、単に通りすがりの人と食事をしている人とではどちらが見世物かと言われれば食事をしている人に違いない。自分の食事風景を観察されるのは気持ちの良いものではない。だから他人の食事風景を観察することは難しいこととだ。だとすれば、食事をしている私の方がどちらかといえば見世物になっているのではないかと思うのである。しかし、足早に通り過ぎる人、近くの交差点では信号を無視して横断歩道を渡ろうと辺りを見回す人など、いろんな人のいろんな表情を観察しているとどうみても道行く人が見世物になっているとしか思えない。

 こんなとりとめもないことを考えているうちに、コーヒーを飲みほした私は、店を出た。

 その瞬間私は、街の風景の一部となって見世物になっている、はずであった。しかし、通りから、窓際でコーヒーすすっている女性を観ると、どうみても、窓の向こうの方が見世物に思えてしょうがなかった。

 10月16日(土)に結婚式参列のために東京に行った。場所は東京ヒルトンホテル。地図を見ると東京都庁の近くらしい。早めに沖縄を発ち、ホテル付近を散策することにした。

初めて観た都庁。とにかくでかい。超高層ビルが立ち並ぶ中、他のビルに負けないくらいに立派である。まさに権威そのもという感じ。日本の首都東京の威厳を示すかのような姿だ。

  土曜閉庁日の昼間とあって都庁周辺は極めて静かだった。中庭には花壇に花を植える人の姿があり、その周りには鳩が集まっている。

 都庁周辺の公園には散策する親子連れやカップル、ジョギングをする人もいる。

 極めて静かな都庁周辺の姿だった。 

 ここ沖縄でも、これまでの夏の暑さがうそのように、朝夕めっきり涼しくなった。敷布団を敷いて、薄いタオルケットを掛けないと朝は肌寒さを感じる。そんな、寒暖の変化を感じながらも、朝の身支度をしているうちに日が昇ってくると、気温は上昇し、いつものように汗ばんでくる。そんな少しずつ変化していく季節の移り変わりの中で、間違いのない季節の変わり目を、私に感じさせてくれるのがトイレだ。そう、便座に座った瞬間である。

 夏の暑さになれた身体。便座に座った瞬間に、その冷たさが心地よい間は、まだまだ夏である。特に誰かが使った後のぬくもりを不快に感じるのなら、季節は夏。

 一方、便座に座った瞬間に、その冷たさが身を凍らせるような刺激が感じるとき、季節は間違いなく冬へと入っている。そして、誰かが使った後のぬくもりが心地よく感じられるとき、季節は冬。

 人のぬくもりを感じるというとき、普通は、他人の善意や親切心に感謝する気持ちを表現するのだが、冬の冷たいトイレで、温め機能のない便座に、冷たさに覚悟して、勇気を振り絞って座った瞬間、人のぬくもりを体感する。文字通りの人のぬくもりを感じる。

 夏から秋へと季節が変わっていくとき、今年は、いつ、便座のぬくもりを心地よいと感じることになるのか。その時が、私の冬の始まりなのである。 

 買い物に出かけようと、着替えているワイフの独り言が聞こえた。

「いやだ。このTシャツ狭くなってる!」

 振り向くと彼女は鏡に向かって、横を向いたり、後を向いたり、ちょっと不機嫌そうだ。

 そもそもTシャツが狭くなることがあるのだろうか。たしかに、新品なら洗濯したときに縮むことがあるだろうが、しばらく着てなかったTシャツだ。Tシャツが縮んだんじゃなくて、君が太ったんだろうが。そうとしか思えない。

 しかし、よく考えてみると、彼女は「狭くなってる」とは言っても「縮んでいる」とは言っていない。そうか、Tシャツと自らの体型との相関関係の中で、「狭くなってる」と表現したに違いない。そうか、本人も自らが太り気味であることを自覚しているのだ。だから、自らを傷つけまいとして、あいまいな表現で、落胆している自らの気持ちを表現しているのか。これが女ごころというものか。新聞を開ろげながら、記事にはめもくれず考えていると、後ろに気配を感じた。

 振り向くとワイフが私を見ている。

 「ねぇ。何か言った。」

 不意を突かれた私は、うろたえながら

 「えぇ。何も。」と応える。

 まさか、聞こえたの。女の直感は神がかり的である。

夕食時のことである。ワイフが尋ねる。

「ねぇ。学校の幽霊の話って聞いたことがある。」

「あぁ。最近子供たちの間で流行っている『学校の怪談』のこと?」私が応えると、

「違うの。私の学校の図書館のことなんだけど。・・・」

 ワイフは、彼女の通う小学校の図書館の話を始めた。

 図書館司書の話によると、本がひとりでに本棚から落ちることがあるという。
 授業中、司書以外は誰もいない図書館。机上で仕事をしていると、“ドサッツ”という音が聞こえた。気になって、音のした場所へいくと本が落ちているという。子供たちが乱雑に置いていった本が落ちたのだろうと思いながら、本を元の場所に戻す。やがて、本が落ちたことなど忘れていると、また、違う場所で“ドサッツ”という音が聞こえる。
「本当に幽霊の仕業なのかしら。本当にそうなら、気味が悪いは。何か確かめる方法はないのかしら。」と、気味悪そうに話す司書に、ワイフは提案したという。
「だったら、落ちた本は元に戻さないで、こう言うの。『ゆうれいさん。あなたが本を落したんだったら自分で拾って元に戻してね。いい、あなたが元に戻して、私は拾わないわ。』ってね。」

 なるほど、本が元に戻っていたら幽霊の仕業であることがはっきりするのだから。妙案だ。本が書棚から落ちるのは引力の仕業で、決して幽霊がやったのではないと考えるのが普通だ。
だから、本当に幽霊の仕業なのか確かめる必要がある。
 もし仮に本がひとりでに書棚に戻っていたら、これは大事件だ。

 この話を聞いてから、私は図書館で本が落ちていても、そのまま、そっとして置くことにしている。もしかしたら、幽霊の存在を確かめるための試みなのかもしれないから。

  野底山から戻った栄子はすぐにシャワーを浴びた。温かいお湯が栄子の心の中の垢までも洗い流してくれるようだった。ひさしぶりの運動で体中の筋肉が心地いい疲労感につつまれている。こんなさわやかな気持ちはいつ依頼だろう。孝男とのことでいつまでもうじうじしていた自分が馬鹿のように思えてくる。特にあてがあるわけではないけれど、なんだか未来は明るいような気持ちになってきた。
 シャワーを終えて、1階のレストランで早めの夕食を済ませた。特にごちそうメニューではなかったけれど、山歩きですっかりお腹がすいていた栄子にはこのうえなくおいしかった。
 食事を終えて、部屋に戻った栄子は、明日の予定を考えていた。特にあてもない女の一人旅。毎日の予定のない気ままな旅。帰りだけが明後日と決まっていた。どこにいこうかタウン誌や地図とにらめっこをしているが、山歩きの疲れと満腹感で睡魔が襲ってくる。明日は明日で。栄子は早いうちから寝床に就いた。
 夜が明けたころだろうか。栄子は目が覚めた。気になることがあった。あの子はどうなったのだろうか。山歩きで出会った少女である。かすりのような着物を着た裸足の少女である。気になると栄子は居ても立ってもいられなくなった。栄子は運動靴に履き替えると野底山へ向かった。一度登ったところである。なんてことはなかった。栄子はずんずん登っていった。途中綱を伝うところも問題なかった。やがて頂上についた。栄子が予想していたとおり、ほんの小さな頂にあの少女が立っていた。栄子に気づいた少女はゆっくりとこちらを振り向いた。栄子が「待って!」と叫ぶ間もなく少女の体は宙を舞った。驚いた栄子が駆け寄って、少女の体が宙を舞って落ちて行ったところに目をやろうと体を乗り出した瞬間、山の突風が吹いた「あっ!」叫ぶ間もなく栄子の体も宙を舞った。

 栄子は目が覚めた。夢か。途中夢かなとは思いながらも、野底山の頂を目指す自分がおかしかった。
 あの少女はマーペーだったのか。思いを遂げられずに石になったんじゃなかった。
 二度と悲劇が起きないように、後世の人々が語りついできたのかもしれない。
 女には二つのタイプがあると聞いたことがある。愛する男を奪う女と愛する男のために身を引く女と。私はどちらだろう。そしてマーペーは、どちらだろう。思いを遂げられずに身を投げたのだとしたら、マーペーは奪う女にちがいない。私はどちらだろう。
 取りとめもなく頭を巡らしているうちに、栄子は眠りについた。
 心地いい疲労感が、いつまでも栄子をつつんでいた。

 栄子は野底山の入り口に立っていた。  客室乗務員に教えられたとおり、真新しい運動靴に履き替えた栄子は登り始めた。なんてことはない。途中綱を伝って登らなければならない場所はあるものの山歩きだ。たいしたことはない。少しずつ汗ばんできた。初夏の風が栄子の体に心地良い。

 しばらく登っていくと、後方から人の気配がした。誰だろう。こんな真昼間に山歩きをしているのは。自分のことはさておいて、不思議に思った栄子は後ろを振り返った。一人の少女が登って来る。少女は栄子の傍らを登って行く。

 こんにちは、栄子が声をかけた。

 少女は栄子の存在さえも気づかないかのように黙ったまま、傍らを通り過ぎて行く。変な子。15,6歳だろうか。かすりのような着物を来ている。裸足。まさか、栄子は目を疑った。声をかけているのに知らんぷりの裸足の少女。不思議に思いながら、栄子は少女の後に続いた。しかし、少女の足取りは速かった。山の坂道もなんのその少女はずんずん登っていく。やがてその後ろ姿は木々の間に消えていった。  頂上はまだかしら。登り始めてから40分くらい経つのに頂上はまだ見えない。栄子はリュックからペットボトルを取り出し、一気に半分くらいを飲み干した。唇から水がこぼれた。こぼれた水が喉元を伝って流れおちる。喉を潤すと、これまで目に入らなかった周りの景色が目に飛び込んできた。こんなに緑に囲まれたのはいつ以来だろう。ほんとに久しぶり。大きく深呼吸をしてみるとなんだか元気が湧いてくるような気がした。さあ、あと少し。栄子が登り始めた時。あ〜という声が聞こえたような気がした。何。鳥の声。動物の鳴声。定かでない。

 登り始めて1時間は経ったころだろうか。頂上が見えてきた。
 やっと来た。ほんの小さな頂に立った。周りを見渡すと石垣島の風景がよく見える。
 マーペーにとって大きな壁となった於茂登山も目の前だ。その於茂登山に向かって横たわるひと固まりの岩。これがマーペー。栄子は岩に手を触れてみた。冷たい岩。本当にマーペーは岩になったのかしら。
 野底山から見える石垣の景色はいつまでも、栄子に優しい風を送っていた。

    栄子が、快感の汗をシャワーで流していたときだった。突然、彼の携帯が鳴った。
 「誰?」と尋ねる栄子の声に、孝男は応えない。
 栄子がシャワーを終え、バスルームから出ると同時に、身支度を整えた孝男が飛び込んできた。
「行かなきゃ。」と孝男。
「どこへ?」と栄子。
「息子が高熱を出して病院に運ばれた。髄膜炎の疑いがあるって。」
「重いの。」
「分からない。とにかく行かなきゃ。」
「ごめん。後で連絡するよ。」
せわしそうに部屋を後にする孝男に、
「分かった。」と応える栄子。
 栄子にはそれだけが精いっぱいだった。

 それから孝男からは連絡が来なかった。待っても待っても来なかった。
 何度も電話をかけようと思ったけれどできなかった。明日は来るかもしれないと待っているうちに、掛けそびれてしまった。たまに、職場で見かけても、孝男は避けるかのように栄子を見てはくれなかった。
 子供の病気。情事の場所からの突然の帰宅。「ごめん。」と言い残して。子煩悩な人柄に安心し、この人なら幸せな家庭を築けると信頼していた。でも、彼の後姿を見送った後、栄子は、得体の知れない不安に駆られていた。
 そして、その予感は的中した。奥さんとは離婚しても子供とは別れられない彼に気づいた。

 そして一人旅。

 情事の時の孝男は、特に優しかった。今まで、こんなに優しく、いたわるように抱いてくれた男(ひと)はいなかった。耳たぶから足の先まで、孝男は優しく愛撫してくれる。ゆっくりと。栄子の体だけでなく、こころまでもいたわるように、優しく唇をふれてくる。抗しがたい快感が栄子を包む。栄子は目を閉じたまま両足をぴたと閉じたままだ。溢れだす興奮はとどまることを知らない。いつの間にか、われを忘れた栄子は押し殺すように声を漏らす。
 いや〜、とつぶやく栄子。
 いやなの、と孝男。
 馬鹿。
 そのときだけ、栄子は頭を起して幼子をいたわるように言った後、静かに両足を開いた。
 たわいないやり取りが、2人の思いを確認するのには十分だった。

 情事でいったのは彼が初めてだった。 
 この人となら幸せになれるかもしれない、と思った。
 彼の優しはそれだけではなかった。妻の悪口は言っても、子供には優しかった。子供のことを語るときの優しさは格別だった。この人となら幸せな家庭が作れるかもしれない。

 栄子は本気でそう思った。

   栄子の彼は会社の上司の孝男。いわゆる社内不倫。でも、栄子は本気だったし、孝男も妻と別れて結婚すると言ってくれた。部署が違うのでいっしょに仕事をしたことはない。社内食堂で声をかけられ、何度かデートするうちに引かれていった。
 「孝男さん。どうして私に声をかけたの。」
 「え。」
 虚をつかれたように孝男は声を詰まらせた。
 「実は、始めて栄子をみたときからピンときていたんだ。」
 「ピン、って何?」
 「直観みたいなものかな。この女(ひと)ならと思ったんだ。」
 「この人(ひと)ってどういう意味?」
 「運命の女って感じかな。」
 「孝男さん、奥さんいるじゃない。どうして私が運命なの。」
 「あいつとは弾みで結婚しちゃったんだよ。結婚するまでは優しく振舞っていたくせに、結婚する と同時に掌を返したように変わった。掃除はしないし、飯もまずい。朝は弱いからって俺が出勤するまで起きてもこない。最悪だよ。だから、俺、哲学者にでもなろうかと思ったくらいだよ。」
  孝男は悪戯っぽく笑った。
 「でも、子供さんいらっしゃるんでしょ。」
 「子どもがいるから我慢できるようなもの。子は鎹(かすがい)っていうだろ。子どもがいなけりゃ離婚だよ。」
 「そうなんだ。」
 他人の夫婦関係なんか別に興味がなかったけれど、こうして直に聞かされると興味というか、何か変な感じだけど、もっと聞きたくなる。
 「ここしばらくセックスレス。こんな状態で、栄子のような女に出会ったらいちころだよ。栄子は俺にとって特別だよ。」
  ほんとに特別なの。

 孝男の言葉を信じたいような、信じられないような。微妙に揺れ動く心の戸惑いの中で、でも、たしかに孝男に惹かれていく自分自身が、栄子は愛おしかった。

 きままなOLの一人旅。誰の目にもそう映ったにちがいない。神戸空港から宮古島を経由しての石垣島への旅。栄子は機内紙で眼にした物語が気になっていた。

  タイトルは『野底マーペー』。
 石垣島の南に位置する黒島で道切りが行われた。道切りとは首里王府が行った開拓政策。耕作地の乏しい村の一部の島民を石垣島や西表島に移住させて新しい村を作らせた。その黒島に将来を約束しあったカムナイという若者とマーペーという娘がいた。二人は道を隔てて住んでいたのだが、ちょうどその間の道で道切りが行われ、マーペーは石垣島の野底へ移住することになった。家族とともに野底に移住したマーペーではあったが、カムナイのことが忘れられない。厳しい開墾作業の中、カムナイへの思いは募るばかり。居ても立ってもいられなくなったマーペーは、カムナイの住む黒島を一目見ようと野底山に登った。ところが目の前には於茂登山がそびえ立ち、思い募るカムナイの住む黒島は見えない。目の前にそびえる於茂登山はマーペーには二人を隔てる大きな壁に見えたにちがいない。失意にくれるマーペーはその場に泣き崩れた。
 翌朝、姿が見えなくなったマーペーを村人が探したが見つからない。野底山に登った村人が見つけたのは黒島の方向に向かって横たわる石。それまで頂上には石は見当たらず、その時初めて見る人影のような石だった。その後、野底の村人たちはマーペーが泣き崩れて石になったと伝えたという。

 私ならどうしたのかしら。思いを遂げられず石になったというマーペーに共感しながらも、男は他にたくさんいるじゃない、との反感も湧いてくる。そんなことに思いをはせながら、栄子は、野底山に登ってみたくなっていた。  どんな山なのかしら、女一人でも登れるのかしら。山の高さは282m。客室乗務員に尋ねると、大丈夫ですよ、1時間そこらでは登れますよ、との返事。いわゆる山ではない。ハイキング気分で登れそうだ。もう一度物語を読み返してみる。そのうちに登りたいという気持ちはやがて登らなくてはという義務感にも似た気分に変わっていった。そのことが栄子の旅にふさわしいイベントであるような気がしたからだ。

  ちなみに那覇ではハブは見つけたら退治するように教えられている。ハブは、退治しようと人間が追いかけていくと、途中でとぐろを巻いて追ってきた人間に逆に襲いかかるという。ハブは見つけた時点で退治しないとその場所に戻ってくるとも言われているので退治するのだ。猛毒を持っおり、咬傷事故を防ぐためにも退治するのが一般だ。  どうしようか迷っているうちに彼は庭に降りて行った。スルスルと庭を這っていく蛇、途中で立ち止り、かまくびを持ち上げ周囲を確認している。下をへらへらさせながらこちらを振り向いて一瞬制止したが、また、スルスルと這っていった。やがて彼の姿は暗闇の中に消えていった。

 事務所の裏通りにある老舗の昭和食堂。そこの店主に真夜中の蛇の話をした。
 「そりゃ良かった。蛇は神様の使いだ。あんたに会いに来たんだよ。きっと。 その蛇はメスだな。きっと。間違いない。」と店主が言った。
 「なんでですか。」と私。
 「男の布団にもぐりこんでくるんだ、女に決まっている。」と店主。
 「でも、最近では男好きの奴も普通みたいですよ。」と私。
 私の顔を覗き込んで大笑いした店主は、そのまま店の奥へ入っていった。

 食事を終えて帰ろうとすると、店の奥から顔だけ出した店主が言った。
 「命を助けてくれたお礼に、彼女があんたに会いに来るよ。」
 「彼女?」と私。
 「さっき話していた蛇の彼女だよ。あんた単身だろ。きっと良い女が会いに来るよ。楽しみにしてな。」
 そう言って、また大笑いしながら奥へ引っこんでしまった。

 あれから、数か月、蛇の彼女は、未だに訪ねてこない。

   時計は午前零時を回っていた。明日の仕事に備えて、寝床の準備を済ませ、蒲団にもぐりこみ、まどろみから眠りへと落ちかけた時だった。寝ている私の左腕をなでて何かが動いた。私は目を覚ました。百足(むかで)かなと思った。なぜ百足と思ったのか。きっと、昨日、玄関先で見かけたクモの巣にかかり死んでいた百足を思い出したのだろう。しかし、そんなことを思いながらも、ふとんの上に立ち上がり電気をつけている自分自身に驚いた。違う。頭の中では百足かなと考えながも、体はもっと驚いていた。時計を確認すると午前零時30分。ほとんど眠ていないにもかかわらず、体は緊張し、完全に目が覚めている。
 布団をめくってみた。何も見つからない。その時、脇に積んであった毛布の脇で何かが動いた。おそるおそる積んであった毛布をよけると、五十センチくらいの蛇がいた。度肝を抜かれた。頭を見ると団栗(どんぐり)の様な形をしている。ハブの頭は逆三角形なので、どうやらハブではないらしい。しかし、咬まれるとどうなるかわからない。いや、咬まれるか否かではない。寝床に蛇が忍び込み、私の左腕をなでたのだからたまらない。私の腕を撫でたのがこの蛇だと分かって更に背中がゾクッとした。
 戦うべきか否か、逡巡していると、蛇は舌をへらへらしながら、身をくねらせて、掃き出し口に向かっている。蛇が舌を出すのは温度差を感じながら、自分の行く先を確認していると聞いたことがある。蛇とは反対側から、私も履き出し口に向かい、鍵をはずしてガラス戸を開けた。蛇は外に向かって、舌をへらへらしている。ガラス戸の先の網戸に舌をつけている。私が網戸を開けると、蛇は外気温を確認するかのように、舌をへらへらしながらゆっくり畳間から吐き出し口の雨戸のレールを伝って降りて行く。今ガラス戸を強く閉めれば蛇の脊柱を切断し間違いなく退治できる。そんなことを考えながらも、ここ石垣では蛇は神様の使いだから、けっして殺してはいけないとの話を思い出した。

お問合せ・ご相談はこちら

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
090-8666-1195

沖縄県の中部嘉手納町で行政書士事務所を開設しています。日常生活の中で悩みはなかなか尽きないもの。しかし、どんな問題にも解決の糸口があるはずです。離婚、相続、遺産分割、遺言書の作成、建設業許可に関わる問題等々・・・。あなたのお悩みに最適な解決方法を提案します。
当サイトでは、まず、悩み解決に向けての情報提供ができればと考えています。問題の所在が分かれば、解決に向けての情報収集が必要です。その一助になればと考えています。参考にしていただければ幸いです。

お気軽にお問合せください

お電話でのお問合せ

090-8666-1195

プロフィール

HM用縮小 DSC_1188.jpg

こんにちは、行政書士の福地義広です。あなたのお悩みに最適な解決方法を提案します。
登録番号  第08471847号
1960年(昭和35年)11月21日生まれ
家族:両親、妻、息子3人
プロフィールの詳細は代表者あいさつに掲載しました。よろしくお願いします。  

福地行政書士事務所

住所

〒904-0203
沖縄県中頭郡嘉手納町字嘉手納122-1

新着記事一覧

ページ一覧

フクチ義広後援会(29)
新型コロナウイルス感染関係(21)
PFOS等汚染問題(25)
沖縄差別の実態(25)
米軍の違反パラシュート降下訓練(16)
2.24県民投票(36)
沖縄の民意圧殺を許すな!!!~行動、選挙支援等~(19)
辺野古埋立承認撤回(2018.8.31)(20)
新ページ追加(12)
朝鮮半島平和構築(7)
名護市長選挙(2018年2月4日)(9)
2018.9.30沖縄県知事選挙、10.14豊見城市長選挙、10.21那覇市長選挙(20)
緑ヶ丘保育園・普天間第2小学校(宜野湾市在)への米軍ヘリ落下物事故(31)
うるま市伊計島、読谷村儀間、渡名喜島での米軍ヘリ不時着事故。さらに伊計島でのオスプレイのエンジンカバー落下事故。(8)
米軍ヘリ落下物事故、墜落、不時着等を受けての政府の対応(18)
お勧め記事(111)
新着案内(158)
トップページ(25)
書籍・新聞等からの資料(23)
代表者あいさつとプロフィール(2)
業務案内(20)
顧問契約(相談業務)(1)
離婚関係(1)
相続関係(1)
事業関係(8)
遺言書(18)
問題解決プログラム(1)
契約書等のひな型(7)
離婚(5)
遺産相続(4)
借金(2)
情報提供(7)
裁判員制度(6)
判例・裁判関連報道等(35)
成年後見制度(2)
お客様の声、質問(50)
代執行訴訟、違法確認訴訟等これまでの経緯(翁長知事 辺野古新基地建設阻止)(257)
集団的自衛権行使は憲法違反。安保関連法案を廃案にせよ。(17)
辺野古新基地建設阻止、高江ヘリパッド建設阻止行動(キャンプシュワーブ・高江等)(57)
名護市辺野古海域の埋立は人類に対する犯罪だ。美しい辺野古の海を守りましょう!!!(11)
普天間飛行場の辺野古移設阻止(127)
許すなオスプレイ配備(183)
許すなオスプレイ配備2(50)
沖縄の米軍基地(23)
夜間爆音被害の実態 嘉手納・普天間両米軍基地(26)
第4次、第3次嘉手納基地爆音差止訴訟等訴訟、爆音関連(281)
嘉手納米軍基地の爆音(115)
嘉手納町役場から入手した爆音データより(17)
米軍機(オスプレイ等)事故(56)
普天間基地の爆音の最新情報(16)

電子書籍

しあわせ講話集
☆▼☆
早川一光講話集 CD全12巻

△☆▼☆寂聴さんのおもしろ法話。聴いて、笑って、元気になる! 「瀬戸内寂聴・京都法話集 CD全12巻
☆▼☆△渡辺先生の愛と幸せに満ちたお話 「渡辺和子講話集 CD全12巻
☆▼☆いのちの輝きが教えてくれる豊かな明日への道しるべ 「いのちを見つめて CD全12巻
☆▼☆京都の名物医師・早川先生の元気いっぱい講話集 「早川一光講話集 CD全12巻
☆▼☆実り豊かな毎日へとあなたを導く名講話集 「現代に生きる CD全12巻
☆▼☆日本文化を大切に…高田好胤師の説得力ある法話集 「高田好胤法話集 CD全12巻☆▼☆▲松原先生百歳記念講話集!心豊かな人生を送る秘訣 「松原泰道講話集 CD全14巻▼☆▼☆カマタ流!しあわせに生きる秘訣 「鎌田實講話集 CD全12巻
▲☆▼☆各宗派15人の名僧との対談をたっぷり収録。仏教の面白さがよくわかる 「ひろさちやの仏教探訪 CD全16巻☆▼☆▼”おもしろ法話”がDVD 「瀬戸内寂聴・天台寺法話集 DVD全10巻
▲☆▼☆在宅ホスピス医・内藤いづみ先生が語る、「しあわせに生きる方法」とは 「内藤いづみ講話集 CD全12巻☆▼☆▼“医療の本質はやさしさ”を実践したナースが語る 「石垣靖子講話集 CD全12巻☆▼☆▲釈尊の教えであなたの今日がイキイキと輝きます 「釈尊に学ぶ生き方 CD全12巻▼☆▼☆相田みつをの、書とはまた一味違う貴重な講演集 「相田みつを講演集 CD全10巻☆▼☆▲元気が出る!人生がラクになる!珠玉のことば134 「相田みつを作品集 全2巻☆▼☆▼こころ豊かに人生を生きるには? やすらぎの12話。 「酒井大岳講話集 CD全12巻
▲☆▼☆日本を代表する尼僧が語る、仏教の真髄 「青山俊董講話集 CD全12巻
▼☆▼☆季節の行事には人生のヒントがいっぱい! 「ひろさちやの日本人の神さま仏さま CD全12巻☆▼☆▲