夕食時のことである。ワイフが尋ねる。
「ねぇ。学校の幽霊の話って聞いたことがある。」
「あぁ。最近子供たちの間で流行っている『学校の怪談』のこと?」私が応えると、
「違うの。私の学校の図書館のことなんだけど。・・・」
ワイフは、彼女の通う小学校の図書館の話を始めた。
図書館司書の話によると、本がひとりでに本棚から落ちることがあるという。
授業中、司書以外は誰もいない図書館。机上で仕事をしていると、“ドサッツ”という音が聞こえた。気になって、音のした場所へいくと本が落ちているという。子供たちが乱雑に置いていった本が落ちたのだろうと思いながら、本を元の場所に戻す。やがて、本が落ちたことなど忘れていると、また、違う場所で“ドサッツ”という音が聞こえる。
「本当に幽霊の仕業なのかしら。本当にそうなら、気味が悪いは。何か確かめる方法はないのかしら。」と、気味悪そうに話す司書に、ワイフは提案したという。
「だったら、落ちた本は元に戻さないで、こう言うの。『ゆうれいさん。あなたが本を落したんだったら自分で拾って元に戻してね。いい、あなたが元に戻して、私は拾わないわ。』ってね。」
なるほど、本が元に戻っていたら幽霊の仕業であることがはっきりするのだから。妙案だ。本が書棚から落ちるのは引力の仕業で、決して幽霊がやったのではないと考えるのが普通だ。
だから、本当に幽霊の仕業なのか確かめる必要がある。
もし仮に本がひとりでに書棚に戻っていたら、これは大事件だ。
この話を聞いてから、私は図書館で本が落ちていても、そのまま、そっとして置くことにしている。もしかしたら、幽霊の存在を確かめるための試みなのかもしれないから。