買い物に出かけようと、着替えているワイフの独り言が聞こえた。
「いやだ。このTシャツ狭くなってる!」
振り向くと彼女は鏡に向かって、横を向いたり、後を向いたり、ちょっと不機嫌そうだ。
そもそもTシャツが狭くなることがあるのだろうか。たしかに、新品なら洗濯したときに縮むことがあるだろうが、しばらく着てなかったTシャツだ。Tシャツが縮んだんじゃなくて、君が太ったんだろうが。そうとしか思えない。
しかし、よく考えてみると、彼女は「狭くなってる」とは言っても「縮んでいる」とは言っていない。そうか、Tシャツと自らの体型との相関関係の中で、「狭くなってる」と表現したに違いない。そうか、本人も自らが太り気味であることを自覚しているのだ。だから、自らを傷つけまいとして、あいまいな表現で、落胆している自らの気持ちを表現しているのか。これが女ごころというものか。新聞を開ろげながら、記事にはめもくれず考えていると、後ろに気配を感じた。
振り向くとワイフが私を見ている。
「ねぇ。何か言った。」
不意を突かれた私は、うろたえながら
「えぇ。何も。」と応える。
まさか、聞こえたの。女の直感は神がかり的である。