時計は午前零時を回っていた。明日の仕事に備えて、寝床の準備を済ませ、蒲団にもぐりこみ、まどろみから眠りへと落ちかけた時だった。寝ている私の左腕をなでて何かが動いた。私は目を覚ました。百足(むかで)かなと思った。なぜ百足と思ったのか。きっと、昨日、玄関先で見かけたクモの巣にかかり死んでいた百足を思い出したのだろう。しかし、そんなことを思いながらも、ふとんの上に立ち上がり電気をつけている自分自身に驚いた。違う。頭の中では百足かなと考えながも、体はもっと驚いていた。時計を確認すると午前零時30分。ほとんど眠ていないにもかかわらず、体は緊張し、完全に目が覚めている。
布団をめくってみた。何も見つからない。その時、脇に積んであった毛布の脇で何かが動いた。おそるおそる積んであった毛布をよけると、五十センチくらいの蛇がいた。度肝を抜かれた。頭を見ると団栗(どんぐり)の様な形をしている。ハブの頭は逆三角形なので、どうやらハブではないらしい。しかし、咬まれるとどうなるかわからない。いや、咬まれるか否かではない。寝床に蛇が忍び込み、私の左腕をなでたのだからたまらない。私の腕を撫でたのがこの蛇だと分かって更に背中がゾクッとした。
戦うべきか否か、逡巡していると、蛇は舌をへらへらしながら、身をくねらせて、掃き出し口に向かっている。蛇が舌を出すのは温度差を感じながら、自分の行く先を確認していると聞いたことがある。蛇とは反対側から、私も履き出し口に向かい、鍵をはずしてガラス戸を開けた。蛇は外に向かって、舌をへらへらしている。ガラス戸の先の網戸に舌をつけている。私が網戸を開けると、蛇は外気温を確認するかのように、舌をへらへらしながらゆっくり畳間から吐き出し口の雨戸のレールを伝って降りて行く。今ガラス戸を強く閉めれば蛇の脊柱を切断し間違いなく退治できる。そんなことを考えながらも、ここ石垣では蛇は神様の使いだから、けっして殺してはいけないとの話を思い出した。