きままなOLの一人旅。誰の目にもそう映ったにちがいない。神戸空港から宮古島を経由しての石垣島への旅。栄子は機内紙で眼にした物語が気になっていた。
タイトルは『野底マーペー』。
石垣島の南に位置する黒島で道切りが行われた。道切りとは首里王府が行った開拓政策。耕作地の乏しい村の一部の島民を石垣島や西表島に移住させて新しい村を作らせた。その黒島に将来を約束しあったカムナイという若者とマーペーという娘がいた。二人は道を隔てて住んでいたのだが、ちょうどその間の道で道切りが行われ、マーペーは石垣島の野底へ移住することになった。家族とともに野底に移住したマーペーではあったが、カムナイのことが忘れられない。厳しい開墾作業の中、カムナイへの思いは募るばかり。居ても立ってもいられなくなったマーペーは、カムナイの住む黒島を一目見ようと野底山に登った。ところが目の前には於茂登山がそびえ立ち、思い募るカムナイの住む黒島は見えない。目の前にそびえる於茂登山はマーペーには二人を隔てる大きな壁に見えたにちがいない。失意にくれるマーペーはその場に泣き崩れた。
翌朝、姿が見えなくなったマーペーを村人が探したが見つからない。野底山に登った村人が見つけたのは黒島の方向に向かって横たわる石。それまで頂上には石は見当たらず、その時初めて見る人影のような石だった。その後、野底の村人たちはマーペーが泣き崩れて石になったと伝えたという。
私ならどうしたのかしら。思いを遂げられず石になったというマーペーに共感しながらも、男は他にたくさんいるじゃない、との反感も湧いてくる。そんなことに思いをはせながら、栄子は、野底山に登ってみたくなっていた。 どんな山なのかしら、女一人でも登れるのかしら。山の高さは282m。客室乗務員に尋ねると、大丈夫ですよ、1時間そこらでは登れますよ、との返事。いわゆる山ではない。ハイキング気分で登れそうだ。もう一度物語を読み返してみる。そのうちに登りたいという気持ちはやがて登らなくてはという義務感にも似た気分に変わっていった。そのことが栄子の旅にふさわしいイベントであるような気がしたからだ。