情事の時の孝男は、特に優しかった。今まで、こんなに優しく、いたわるように抱いてくれた男(ひと)はいなかった。耳たぶから足の先まで、孝男は優しく愛撫してくれる。ゆっくりと。栄子の体だけでなく、こころまでもいたわるように、優しく唇をふれてくる。抗しがたい快感が栄子を包む。栄子は目を閉じたまま両足をぴたと閉じたままだ。溢れだす興奮はとどまることを知らない。いつの間にか、われを忘れた栄子は押し殺すように声を漏らす。
いや〜、とつぶやく栄子。
いやなの、と孝男。
馬鹿。
そのときだけ、栄子は頭を起して幼子をいたわるように言った後、静かに両足を開いた。
たわいないやり取りが、2人の思いを確認するのには十分だった。
情事でいったのは彼が初めてだった。
この人となら幸せになれるかもしれない、と思った。
彼の優しはそれだけではなかった。妻の悪口は言っても、子供には優しかった。子供のことを語るときの優しさは格別だった。この人となら幸せな家庭が作れるかもしれない。
栄子は本気でそう思った。