集団的自衛権に関する議論の奇異
集団的自衛権の議論の発端として指摘されたのは、公海上での共同行動中の米国艦船等への攻撃があった場合に攻撃国に対して自衛隊が反撃できないとか、PKO活動中の他国軍隊への攻撃について反撃できない等の、他国軍隊と自衛隊が共同行動中に発生した事態に対処できないとの指摘だ。これらの行為は憲法第9条が定める専守防衛規定に抵触する。
そこで今回持ち出されたのが、上記のような場合に多国艦船等を守るために反撃する集団的自衛権が憲法9条でも許されるとの議論である。
ところが、ここへ来て、集団的自衛権の範囲についてきな臭い議論が噴出している(以下は各紙等HMからの抜粋) 。
1.集団的自衛権の範囲は地球の裏側を含む(高見沢官房副長官補)
2013年09月19日23時36分 朝日新聞 安倍政権で安全保障政策と危機管理を担当する高見沢将林(のぶしげ)・官房副長官補は19日の自民党の安保関係合同部会で、集団的自衛権の行使が認められた場合の自衛隊の活動範囲について「『絶対、地球の裏側に行きません』という性格のものではない」と述べ、日本周辺以外での武力行使の可能性を示した。・・高見沢氏は、自民党議員が「(集団的自衛権で自衛隊が)地球の裏側に行って戦争をするのか」と質問したのに対し、「日本の防衛を考えていくとき、地球の裏側であれば(日本は)全く関係ない、ということは一概には言えない」と述べ、内閣の判断によって遠隔地で集団的自衛権を行使する可能性に言及。一方で「米国が行くから全部そこについて行くわけではない」とも述べた。 |
2.地球の裏側には及ばないがアジア諸国には及ぶ(石破自民党幹事長)
2013/9/25 20:44 日本経済新聞 ・・石破茂幹事長は25日、都内で講演し、集団的自衛権の行使容認に向けた議論について「認めると米国と一緒になって地球の裏まで行って戦争すると言う人もいるが、そんなことはしない」と語った。高見沢将林官房副長官補が先に地球の裏側への自衛隊派遣の可能性を排除しない考えを示したのを打ち消す狙いがあるとみられる。 一方で「日本が米国だけでなく、他のアジアの国々との間にも『あなた方がやられたら日本も助ける』という関係をつくることは戦争をしないためにも大事だ」と指摘。中国と抑止力の均衡をはかるため、集団的自衛権の行使対象を米国以外のアジア諸国に広げるべきだとの考えも示した。 |
3.今の段階で、まだ方向性を示すべきではない(菅官房長官)
2013年9月25日 19時35分 東京新聞 菅義偉官房長官は25日の記者会見で、集団的自衛権の行使を容認する場合に日本周辺から遠く離れた地域への自衛隊派遣を検討する可能性について「今の段階で、まだ方向性を示すべきではない」と述べるにとどめた。 集団的自衛権を行使するかどうかを地理的概念では判断しないとの考えを安倍晋三首相が示したことに関連し、質問に答えた。・・ |
4.将来、『地球の裏側』に行く事態もあり得る(中谷元・元防衛庁長官)
2013年09月26日23時01分 朝日新聞 ・・自民党の中谷元・元防衛庁長官は、自衛隊が日本からみて「地球の裏側」のような場所でも活動できるかについて「集団的自衛権は地理的概念ではなく、日本の安全に対してどうかという判断だ。将来、『地球の裏側』に行く事態もあり得る」と指摘。「(集団的自衛権の容認を)憲法改正で行うと5年先、10年先になる」とも述べて、早期に憲法の解釈を変更する必要性を訴えた。・・ |
5.日本は積極的平和主義の旗の誇らしい担い手となる(安倍首相)
時事ドットコム (2013/09/26-03:42) 米研究所での安倍首相演説要旨 【ニューヨーク時事】米保守系シンクタンク「ハドソン研究所」主催の会合での安倍晋三首相の演説要旨は次の通り。 具体例で話す。国連平和維持活動(PKO)の現場で、日本の自衛隊がX国の軍隊と活動していたとする。突然、X軍が攻撃にさらされる。しかし、日本の部隊は助けることができない。日本国憲法の現行解釈によると、憲法違反になるからだ。 もう一つの例は公海上だ。日本近海に米海軍のイージス艦数隻が展開し、日本のイージス艦と協力してミサイル発射に備えているとする。突然、米艦1隻が航空機による攻撃を受ける。日本の艦船はどれだけ能力があっても、米艦を助けることができない。集団的自衛権の行使となり、違憲になってしまうからだ。こういった問題にいかに対処すべきか、私たちは今真剣に検討している。 私の国は、鎖の強度を左右してしまう弱い一環であることなどできない。私はわが国安全保障の仕組みを新たなるものにしようと懸命に働いている。日本は初めて国家安全保障会議(NSC)を設立する。初めて国家安全保障戦略を公にする。 本年、わが政府は11年ぶりに防衛費を増額した。すぐそばの隣国に、軍事支出が少なくとも日本の2倍で、米国に次いで世界2位という国がある。毎年10%以上の伸びを20年以上続けている。私の政府が防衛予算をいくら増額したかというと、たったの0.8%にすぎない。従って、もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいのであれば、どうぞ呼んでいただきたい。 日本は地域、世界の平和と安定に今までにも増してより積極的に貢献していく国になる。私は愛する国を積極的平和主義の国にしようと決意している。私に与えられた歴史的使命は、日本に再び活力を与えることによって、積極的平和主義の旗の誇らしい担い手となるよう促していくことだ。 |
6.我が国の平和と安全や国民の生命・財産に関係のないところまで自衛隊の活動範囲が無限に広がるわけではない(小野寺防相)
大臣会見概要 平成25年9月27日(10時56分〜11時07分)防衛省HM Q:集団的自衛権のことでお伺いしたいのですが、安倍首相はニューヨークの公演の中で、「地理的には判断しない。地理的な概念という枠では検討しない」ということをおっしゃったのですが、大臣はこれまで海外派兵というのは想定していないという考えだったのですが、これは集団的自衛権というものを議論する中で、地理的概念という枠では考えないというお考えなのでしょうか。 A:私がかねて「地球の裏側」等のご質問があった中でお話をしている文脈というのは、「我が国の平和と安全や国民の生命・財産に関係のないところまで自衛隊の活動範囲が無限に広がるわけではない」ということを端的に述べたものでありまして、総理の発言と何ら矛盾しているものではないと思っております。 Q:関連ですが、集団的自衛権行使の概念として地理的概念が当たらないのはそのとおりだと思うのですが、一方で政策論として歯止めはある程度必要だと思うのですけれども、歯止めについて大臣はどのように考えてらっしゃいますか。 A:今お話しましたように、集団的自衛権の議論の中で、我が国の平和と安全や国民の生命・財産に関係のないところまで自衛隊の活動範囲が無限に広がるわけではないということ、そのことは大事なことだと思っております。
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以上見るように、その議論は、集団的自衛権の範囲を、我が国の平和と安全や国民の生命・財産に関係する事態となれば、地球の裏側にまで出かけて行使することを可能にするとしている。そして、安倍首相は日本をして積極的平和主義の旗手としてこの国の形を変えると豪語している。
単に、隣にいる他国の軍隊を武力を行使して守れるのかという議論が、日本をして積極的平和主義の国へ変えるという議論へと変質している事実を、我々は見抜かなければならない。
政治家は嘘をつく、主権者たる国民は騙されてはならない。