米軍機事故の責任は誰が負うのか。(琉球新報論壇に掲載されたものに若干加筆しました)
衆院選直後の当選者討論会。沖縄選挙区では落選したものの九州比例区復活を果たした比嘉奈津美氏は、普天間飛行場の危険性除去を最優先すべきだと主張し、同飛行場の危険性について次のように指摘した。
「もし今、事故が起これば誰がどう責任を取るのか。」
この指摘は沖縄の基地問題の病巣を指摘している。
過去の嘉手納基地爆音訴訟において、原告が米国政府を被告として爆音差止め・損害賠償を求めた訴えた対米国訴訟で裁判所は訴えを却下した。
その理由について、裁判所は次のように判断した。
米国に対しては「我が国の民事裁判権から免除されるとの国際慣習法が存在するものであり、」米国政府「に対して我が国の民事裁判権は及んでいない」。さらに「国連裁判権免除条約上、国家の主観的行為が不法行為に該当する場合において、その主観的行為に対する差し止め請求につき、当該国に他国の裁判所の裁判権からの免除を認めない旨を定めた規定は設けられていない。」とした。
つまり、日本国民には、米国政府の主権的行為による不法行為(故意または過失による損害の発生)に対して裁判を起こす権利はない、という判断だ。
したがって、冒頭の比嘉氏の指摘に対する応えは、もし今、米軍機事故が起こっても、その責任は米国政府には問えない、ということになる。
ならば、日本政府には責任を問えるのか。
事故被害者が日本政府を相手に裁判を起こす。日本政府は、安保条約上管理権の及ばない米軍機による事故については責任を負えない、と主張する。
第三者行為論によって、米軍機の飛行差し止めさえできない日本政府が、何故、米軍機事故についての損害賠償責任を負う義務があるのか、という主張だ。
すると裁判所は、事故原因を発生させた当事者ではない日本政府への訴えは認めない可能性が極めて高い。
結局、冒頭の比嘉氏の問いに対しては「もし今、米軍機事故が起こっても、その責任は日米両政府には問えない」というのが応えだ。その可能性は極めて高いと思う。
この議論、何も沖縄だけに限ったことではない。日本の米軍占有施設割合を参考にすれば、米軍機事故の危険性の約75%が沖縄に集中していることになるが、残り25%は日本本土、特に米軍施設を抱える横田・厚木・岩国等の地域が負っていることになる。
日本の航空法で飛行場とは認められない違法空港である普天間飛行場から飛び立った、同法で飛行が禁じられているオスプレイ(同機はオートローテーション機能を有さない違法へりである)が、同法で禁じられている低空飛行訓練中に墜落しても、事故被害者は、日米両政府対しその責任を問うことはできないのだ。
さて、比例復活を果たした比嘉氏は、この事実をどう受け止め、どう解決するのか、同氏に問いたい。