県を相手に国が提訴した不作為の違法確認訴訟。県の「 原告「上申書」に対する意見」に見る国の主張の不当性
7月22日、県を相手に、国が提訴した不作為の違法確認訴訟。提訴と同時に国は、初回結審を求める内容の「上申書」を提出した。この「上申書」に対する反論書が、県提出の「原告「上申書」に対する意見」である。
その内容からは、国の主張の不当性が明らかになる。
平成28年(行ケ)第3号
平成28年7月22日付で原告が提出した「上申書」について、以下のとおり、意見を述べる。
本件訴訟は、代執行訴訟とは、異なる訴訟であり、訴訟法上の連続性がない、まったくの新規の訴訟である。 また、審理の対象が異なることも明らかである。本件訴訟は、代執行訴訟が取下げられた後に出された、国土交通大臣による是正の指示に従わないことの違法性の確認が求められているものである。是正の指示に従わないことが違法であるというためには、是正の指示が適法であることが要件となる。この是正の指示は、代執行訴訟取下げ後になされたものであり、代執行訴訟係属中には存在していないものである。本件訴訟と代執行訴訟では審理の対象が異なることは当然である。 原告は、代執行訴訟時の和解の過程で「書証番号も基本的に同じにして提出されるようご示唆いただいた」としているが、書証番号を同一にしなければならないという合理的な理由は見出し難い。書証番号を同一にしなければならない理由として、可能性を考えるのであれば、代執行訴訟における主張や争点、証拠の整理をそのまま本件訴訟の審理、判決に流用して省力化を図ることくらいしか想定できない。しかし、たまたま後に別訴を受理した裁判体が同一の裁判官による構成であったからといって、訴訟上はまったく別個の取り下げられた事件の審理の成果を利用しうる法的根拠はどこにもない。前訴で提出済みの書証と同一のものであっても、後訴で労を省くのでなく改めて提出しなければならないのが当事者の責任であることと同様、自明のことである。
代執行訴訟取下げ後になされた是正の指示に対し、沖縄県知事は、国地方係争処理委員会に審査の申出をし、国地方係争処理委員会において、是正の指示の適法性・違法性を巡る主張がなされてきた。 国土交通大臣が国地方係争処理委員会に提出した主張書面は合計700 頁を超え、沖縄県知事が国地方係争処理委員会に提出した主張書面は合計1300 頁を超えるものであった。 代執行訴訟と共通する主張もあるが、もちろん異なる主張も大幅に展開されている。そもそも、代執行と同じ主張か異なる主張であるのかということが、整然と区別されうるものでもない。 「代執行訴訟で主張していなかった主張や証拠の提出をすることは厳に慎まれるべきもの」とする原告の主張には合理的な根拠は全く認め得ないものであり、国地方係争処理委員会における審理の経過と意義、そして同委員会における自らの主張をも否定するものである。 3 国土交通大臣に「迅速」をいう資格はないこと
そして、沖縄県知事は、和解条項に基づく是正の指示について、和解条項に定める期限内に国地方係争処理委員会に対して70頁に及ぶ大部の審査申出書により、審査の申出をした。ところが、国土交通大臣は、これに何ら反論することなく、和解条項に基づく是正の指示を一方的に撤回したのである。 和解条項に基づく是正の指示の撤回後、国土交通大臣があらたに地方自治法に基づく是正の指示をしたのが本件是正の指示である。和解条項に基づいて想定されていた国土交通大臣による是正の指示は、当然1回限りのものだったはずではないだろうか。
さらに、国土交通大臣は、平成28年5月になってから、国地方係争処理委員会からの質問に対する回答として130頁近い書面を提出したが、実質的に質問に対する回答は1頁程度のみであり、その余は回答に藉口した主張であり、しかも、その多くが新たな主張であった。証拠の提出期限も経過し、審査期日も開かれた後に、まったく新たな主張をしたものであった。
不作為の違法確認訴訟は、「透明性の高いプロセスの下、国と地方公共団体の双方がそれぞれ主張・立証を尽くし、これをもとに裁判所が判断を行う」( 地方自治法抜本改正についての考え方(平成22 年))ことを制度趣旨として設けられたものである。 主張・立証を尽くすことが許されないとし、本件訴訟を形式的に終わらせるべきであるとする原告の主張は、地方自治法への理解を欠いたものであり、正当なものではない。 |
※藉口(シャコウ):何かにかこつけること。口実をもうけて言いわけすること