大晦日の吉田対石井の戦いは期待はずれだった。序盤に吉田のパンチを食らった石井は最後まで手数がでなかった。2ラウンド以降。スタミナ切れの吉田に対し、付け入るチャンスがあったものの最後まで石井は攻めきれなかった。最終ラウンド終盤、吉田が石井の下半身にタックル。石井の下半身にしがみついたままの状態。攻めにいったというよりも、立っていられずに最後に渾身の力をこめての戦いだった。40歳の年齢での戦いには過酷だったにちがいない。
かたや石井は序盤のパンチに機先を制され前に出ることができなかった。自信満々に見えただけに、期待外れだった。
吉田の姿にはかつてのプロボクシングヘビー級チャンピオンジョージ・フォアマンの姿が重なった。引退後キリスト教の教会を設立した彼は、青少年の更生施設建設費用をねん出するために45歳で現役復帰を果たしたのである。吉田も自ら経営する柔道場の運営費を捻出するために総合格闘技に出場しているという。試合前のインタビューで石井に対するコメントとして、今後は柔道への恩返しを考えるべきだとの趣旨の発言をしていた。自分を育ててくれた柔道を通しての社会貢献である。吉田が自らの道場で子供たちへ柔道を教えるまなざしが、彼の言葉の真意を物語っている。40歳になって、石井の対戦相手を引き受けた彼の姿に感動を覚えたのは私だけではないだろう。
金メダルは通過点にすぎない。金メダルにぶら下がった人生を送りたくない。と云い放って総合格闘技へ転身をはかった石井。今回の敗戦は彼の人生設計において番狂わせに違いない。石井に問えば想定内ですと答えるにだろうが、一番不甲斐なさを感じているのも彼自身ではないだろうか。努力の天才が今回の危機をどのように乗り越えていくのか期待したい。