店の主は続けた。
「きっと、あんたの庭に住んでいるセマルハコガメにマーペーの魂が宿ったんだよ。そして、自分自身を探して石をかじっていたに違いない。」
「まさか。」と私が言うと。
「まさかじゃない、本当のことだ。」と主は言い返した。その強い口調に押されながら、私は味噌汁を飲みこんだ。
「でもどうしてマーペーは自分探しの旅を続けているのか。」と問うと。
「きっと、今もカムナイのことが忘れられずに、募る思いを果たそうとしているに違いない。」と言った後、ほんの少し間をおいて続けた。
「悲しみぬくれ、思いを遂げらぬわが身を嘆いて石にまでなった少女の思いが、今も生き続けているんだよ。」
そう言うと店の主は、隣客が残した皿を片づけて、店の奥へ引っ込んでしまった。
私は、食事を終えて、食器をかかえ、店の奥へ入って行った。店の主は洗い物をしていた。
「でも、カムナイはとっくに死んでいるはずだし、マーペーは何を探しているんだろう。」と私が問うと。
「マーペーが探しているのはカムナイじゃない。カムナイを思って石になった自分自身をさがしているんだ。あんた、執心鐘入を知っているかね?」
「あぁ、あの組踊の?」と私が答えると
店の主は、洗い物の手を止めて、天井の一点を見つめて、こう言った。
「そう、沖縄の女は思いが募ると鬼にもなるんだよ。だから、思い募って石になっても何も不思議じゃない。マーペーは石になった自分自身を探しているんだよ。この世に残した自分の思いが宿っている石をね。」
思い募って石にまでなった少女の思いが、今も、生き続けて自分探しの旅をしているという。
私は、あらためて、石垣島の自然豊かな風景の中に潜む不思議さを感じた。