この事件は、社会保険事務所に勤務する国家公務員が休日に自宅周辺で、他人宅の郵便受けに赤旗を配布したことについて、国家公務員法違反(政治的行為)の罪に問われた事件である。
国家公務員法違反(政治的行為)の罪とはどのような罪だろうか。
国家公務員法102条は国家公務員の政治的行為を禁止している。政治的行為の具体的内容は人事院規則で定めるされ、人事院規則一四―七(政治的行為)には禁止される政治的行為が定められている。その6の七に「政党その他の政治的団体の機関紙たる新聞その他の刊行物を発行し、編集し、配布し又はこれらの行為を援助すること」が定められている。つまり、政党の機関紙を配布してはならないと規定されているのである。
今回の事件では、被告は赤旗配布の事実については争わず、政治的行為を制限する規定自体の違憲性を争った。1審では罰金10万円、執行猶予2年の有罪判決を受けた。この判決について、東京高裁は原判決を破棄して無罪判決を言い渡した。
判決要旨によれば、東京高裁は、「本件配布行為に罰則規定を適用することは、国家公務員の政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度を超えた制約を加え、処罰の対象とするものと言わざるを得ないから、憲法違反との判断を免れず、被告は無罪だ。」とした。更に【付言】の中で、「わが国における国家公務員に対する政治的行為の禁止は一部とはいえ、過度に広範に過ぎる部分があり、憲法上問題がある。地方公務員法との整合性にも問題があるほか、禁止されていない政治的行為に規制目的を阻害する可能性が高いと考えられるものがあるなど、政治的行為の禁止は、法体系全体から見た場合、さまざまな矛盾がある。」とし、禁止規定そのものに憲法上の問題があると指摘している。
国家公務員といえども、一般国民と同様思想信条の自由を有し、その制限は限定的なものでなければならないとの指摘でありもっともであると思う。