昨日、7月30日、普天間爆音訴訟の控訴審判決が言い渡された。今回の判決は、平成20年6月26日の那覇地方裁判所沖縄支部1審判決に比べて、原告の主張を認め前進した点がいくつか見られる。
その一つは 基地から発せられる低周波音(詳細はこちらをクリック・ウィキペディアへ)騒音についても被害の発生源であることを認め、損害額算定を増額させたことである。その結果、1日当たりの慰謝料額が次のようになった。
1審判決 | 控訴審判決 | |
うるささ指数(WECPNL値)80区域 | 1日当200円 | 1日当400円 |
うるささ指数(WECPNL値)75区域 | 1日当100円 | 1日当200円 |
WECPNLは国の定める航空機騒音に係る環境基準(詳細はこちらをクリック)である。それによれば、専ら住居の用に供される地域では70以下、住居以外の地域であつて通常の生活を保全する必要がある地域では75以下となるように規定されているが、判決(判決要旨より 以下同じ)では、過去の嘉手納基地爆音訴訟で、これまで「司法判断が3度も示されているのに、抜本的な対策を講じていない上、自ら定めた環境基準も達成していない」と、これまでの国の姿勢を厳しく非難している。もっともな指摘である。
しかし、飛行差し止め請求については、「原告らの請求は国の支配の及ばない第3者の行為の差し止め」として認めず、さらに「安保条約を廃棄したり、・・・・・、わが国の安全保障全般に直接影響し、国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ事柄。司法機関が差し止め命令を発することはできない。」としている。
例えば、米国のアフガニスタンでの戦闘行為を日本の裁判で差し止めることはできないであろう。米国による、しかも、日本の主権の及ばない外国での行為だからである。
しかし、普天間基地から発生する爆音はどうだろうか。爆音損害の発生地は日本領土内であり、しかも被害を受けているのは日本国民である。そして、基地のほとんどは地域住民の所有地である。にもかかわらず、日本の裁判権は及ばないのだろうか。
先に衆議院選挙で民主党が政権を取り、沖縄の基地問題の解決が進むかと期待したが、元の木阿弥になりかねない状況になっている。裁判所は国の不作為を指摘するが、その国は無策である。
憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定する。この規定は、単に裁判所が違憲立法審査権を持つだけでなく、国の施策が国民主権、基本的人権の保障を損なうとき、救済すべく最後の砦としての役割を規定しているとの指摘もある。
沖縄の基地問題が政権交代後も何ら進展しない状況下においては、司法の役割もまた重要になってくる。