那覇検察審査会の起訴相当の議決を受けて、検察官が中国人船長を起訴する場合の一番の問題は被告人(起訴すると呼称が被疑者から被告人となる)が日本にいないことである。
検察官が被告人を起訴すると、真っ先に執られる手続きが起訴状の送達である。刑事訴訟法第271条は、公訴提起から2カ月以内に起訴状が被告人に送達されないと、「公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。 」と規定している。したがって、中国人船長を起訴しても起訴状送達の方法が確保されなければ「公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失」い、そうなれば、裁判所は、「決定で公訴を棄却しなければならない(刑事訴訟法339条)」のである。
ちなみに民事事件においては司法共助によって、送達等に関して条約締結国に関しては大使館や領事館等を経由しての送達手続きが可能である。
今回の尖閣沖中国漁船衝突事件についは、中国当局の協力が得られる見込みは薄く、仮に起訴したとしても裁判できるかどうかは分からない。しかし、裁判の見込みがないからと言って起訴しないでは済まされない。那覇検察審査会はその議決書において「民意を表明するために上記趣旨のとおり議決する」としており、司法においても民意に立脚した適正な手続きが求められる。今度こそ、法にしたがい、粛々と手続きを進めるべきではないだろうか。