昨年12月21日名古屋高等裁判所(長門栄吉裁判長)判決(クリックで最高裁HMへ)は、非嫡出子の相続分が嫡出子の1/2となっている民法の規定(民法900条4号ただし書)について、条件付きながら、違憲と判断した。
判決では、同規定の意義について「・・本件規定の立法理由には,尊重し優遇されるべき法律婚が現に又は過去に存在している状態で出生した非嫡出子との関係において一定の合理的根拠となり得る」としている。
つまり、被相続人が現に結婚しているか、又は過去に結婚しているような場合には、その後に出生した非嫡出子については、同規定の適用を受けるべきとしている。 それを前提としたうえで、今回のように、被相続人が初婚の場合は婚姻前に出生した非嫡出子については同規定が保護しようとする法益は存在しないとし、本件については違憲であると判断し、次のように結論付けている。
「(本件相続が開始した当時)において,被相続人が1度も婚姻したことがない状態で被相続人の非嫡出子として出生した子について,被相続人がその後婚姻した者との間に出生した嫡出子との関係で本件規定を適用することは,本件規定の前記立法理由をもって正当化することは困難であり,本件規定の適用により生ずる前記のような差異を合理的理由のあるものとして支持するに足りなくなったというべきであるから,上記のような状態で出生した非嫡出子について本件規定を適用する限度で,本件規定は憲法14条1項に違反して無効というべきである。 |
しかし、この考え方を適用すると、以下の図③のように同じ父親から生まれた非嫡出子間での相続分の不均衡が生じる可能性が出てくる。
これを図示すると以下のようになる。
①合憲となる場合
婚姻の嫡出子 → 未婚の非嫡出子
②違憲となる場合(本件の例)
未婚の非嫡出子 → 婚姻の嫡出子
③問題となる事例(同じ父親から生まれた非嫡出子間での相続分の不均衡が生じる可能性がある))
未婚の非嫡出子 → 婚姻の嫡出子 → 未婚の非嫡出子
相続分 1 1 1/2
③のような批判を覚悟でこのような違憲判断を下した裁判所の本旨は理由中の以下の部分に表わされているように思う。
非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする相続規定は,明治時代の旧民法制定当時に設けられ,戦後の民法改正の際に本件規定として引き継がれた・・が,家族関係や親子関係等に対する国民意識や婚姻関係等の実情は,亡父が死亡した平成16年当時と上記の改正当時とを比較しても,大きく変化している・・。すなわち,わが国は戦後急速に経済発展し,都市化が進むなど,経済的,社会的環境は大きく変化し,また,男女雇用機会均等法の施行など,女性の社会進出の増大などの事情も相まって,核家族化などの少子高齢化に伴い家族形態は変化し・・,近年は事実婚や非婚など男女の共同生活のあり方も一様なものでなくなって・・いることは公知の事実であり,必ずしも法律婚でなくとも,子供を持ち,周囲もそのことを受容する傾向が次第に現れてきている・・。そして,平成8年2月26日の法制審議会総会決定による民法の一部を改正する法律案要綱によれば,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分と同等とするものとされており,我が国が平成6年に批准した児童の権利に関する条約2条1項には「締約国は,その管轄の下にある児童に対し,児童又はその父母若しくは法定保護者の(中略)出生又は他の地位にかかわらず,いかなる差別もなしにこの条約に定める権利を尊重し,及び確保する。」と定めているなど,嫡出であるか否かなどの生まれによって差別されない制度とすることが求められている・・。 |
本裁判は条件付き違憲判決という形態を取っているものの、その本旨は非嫡出子相続分規定が違憲であると指摘するところにあり、立法府による制度改正を促すものとなっていると理解するべきである。
平成7年7月5日最高裁は同規定について合憲判断(クリックで最高裁HMへ)したが、その際にも大法廷15名の裁判官のうち5名が違憲の反対意見を述べている。
今回の名古屋高裁判決は上告されることなく確定したという。
同規定改正の動きが加速されることを期待したい。