12月8日に言い渡された第4次厚木基地爆音訴訟最高裁判決。その内容は1,2審で認められた自衛隊機の夜間飛行差し止め及び将来請求をすべて否定した。基地周辺住民の爆音被害を放置する国の姿勢を追認する不当判決だ。
判決はいう。これくらいの自衛隊機による爆音は、自衛隊の国防という任務等からしても、普通に考えて、特段の問題はなく、夜間飛行を差し止めるほどではない、というのだ。
これくらいの爆音とはどういうものか。最高裁は「(厚木)基地に離着陸する航空機の騒音で、(基地周辺に居住する)原告らは睡眠妨害や不快感、健康被害への不安などの精神的苦痛を反復的に受けている」とし、「循環器系や消化器系の疾患が生じたと認定されていない」としながら「睡眠妨害は相当深刻で、原告らの生活の質を損ない、軽視できない」としている。
最高裁が認定した反復的に受けている睡眠妨害から発生する障害は単に「生活の質」の低下だけではない。そこから発生するのは「睡眠の質」の低下だ。
厚生労働省が平成26年3月に発した健康づくりのための睡眠指針2014(平成26年3月)には「第 6 条.良い睡眠のためには、環境づくりも重要です。」と指摘する。そして、睡眠不足になると「②睡眠不足は結果的に仕事の能率を低下させる」「③睡眠不足が蓄積すると回復に時間がかかる」。騒音性睡眠障害の発症にもつながる、と指摘する。「睡眠妨害は相当深刻で、原告らの生活の質を損ない、軽視できない」としながら、最高裁は基地周辺住民に救済の手を差し伸べようとはしない。人権救済の最後の砦としての役割を放棄している。同時に、国は自ら定めた睡眠指針さえをも放棄している。
今年11月17日に言い渡された第2次普天間爆音訴訟判決で、那覇地方裁判所沖縄支部は「・・・原告らを含む一部少数者に特別の犠牲が強いられているといわざるを得ず、ここには、看過することのできない不公平が存する」と指摘した。
基地周辺住民の爆音被害を放置したままの国の姿勢は許されず、そこには法治国家日本の基本原理である法の下の平等に反するとともに、基本的人権の蹂躙という極めて重大な問題だ。
不当判決直後の報告集会。厚木基地爆音防止期成同盟及び第4次厚木基地爆音訴訟団は「第5次厚木基地爆音訴訟の提訴に向けての声明.pdf」を出した。「私たちは、厚木基地の周辺に居住する住民に広く結集を訴え、第5次訴訟の提起をし、最高裁判決の変更を求めていく」と決意をあらたにした。
雨降って地固まる。今最高裁判決は、より強固な裁判闘争を進める足掛かりとしなければならない。
【将来分の損害賠償】 同一の行為が将来も継続すると予測される場合でも、損害賠償請求権の成否やその額はあらかじめ明確に認定できず、具体的な請求権成立時点で初めて認定できる。 その場合、権利の成立要件を備えるかどうかは債権者が立証すべきだ。 飛行機の離着陸時の騒音による周辺住民の精神的、身体的被害を理由とする賠償請求権のうち、事実審の口頭弁論終結翌日以降の分については、将来、それが具体的に成立する時点の事実関係に基づいて判断すべきだ。立証の責任も請求者が負うべきだ。今回のような場合、将来分を請求できないことはこれまでの最高裁判例の通り。裁判官全員一致の意見。 【小池裕裁判長の補足意見】 防衛施設である厚木基地の騒音状況はその時々の予測しがたい内外の情勢、航空機の配備態勢に応じて変動する可能性がある。過去の事情に基づき、騒音による損害賠償請求権の将来分の成否や、その額をあらかじめ一義的に認定するのは困難と言わざるを得ない。 【飛行差し止め可否】 差し止めは行政庁が裁量の範囲を超えるか、乱用となれば認められる。防衛相は権限の行使に当たり、国の平和と安全、身体、財産などの保護に関わる内外の情勢、自衛隊機の運航目的と必要性の程度、騒音被害の性質、程度などの事情を総合考慮してなされるべき高度の政策的、専門技術的な判断を要し、権限行使は広範な裁量に委ねられている。 これを前提に、社会通念に照らし、著しく妥当性を欠くかどうかとの観点から審査する。 厚木基地駐留の海上自衛隊第4航空群は、周辺海域の哨戒任務を中心に民生協力活動、国際貢献、教育訓練などを行ってきた。自衛隊機の運航は極めて重要な役割を果たし、高度の公共性、公益性がある。訓練のための運航も平素から必要不可欠。夜間運航も同様。 一方、同基地に離着陸する航空機の騒音で、原告らは睡眠妨害や不快感、健康被害への不安などの精神的苦痛を反復的に受けている。循環器系や消化器系の疾患が生じたと認定されていないものの、睡眠妨害は相当深刻で、原告らの生活の質を損ない、軽視できない。 第4航空群は自主規制し、午後10時から午前6時まで訓練飛行も地上試運転も原則しない。この時間帯の自衛隊機の離着陸回数は2013年度で計83回、14年度は53回にとどまる。国は総額1兆440億円超を支出して住宅、学校、病院の防音工事への助成、移転補償、買い入れなどの周辺対策事業を実施してきた。 これらを総合考慮すれば、運航が社会通念に照らし、著しく妥当性を欠くと認めることは困難。裁判官全員一致の意見。 <小池裁判長の補足意見> 運航により国民全体に関わる利益を守ることと、周辺の騒音被害を回避することは、その対応と調整に困難を伴う。二つの要請がある中、騒音被害の防止や軽減のための措置を講じつつ運航する行為が、裁量の範囲を逸脱、乱用したと認めることはできない。 |