はじめに 今、堂々と、誇りある豊かさを!
「次は我々が試される。沖縄が試される」
十万人を超える人々が結集した県民大会、「建白書」を政府に突きつけた東京行動。 「県民の心がひとつ」になり、固く結ばれた「オール沖縄」に、一点の揺るぎもなかった、その頃から、私は、ことある毎に、その言葉を口にしていました。私には、行く末に立ちはだかる大きな試練と苦難が十分に予見できていたからです。
果たして、その不安は的中し、一年も経たないうちに、中央政府は、限りを尽くし、「オール沖縄」の輪から、力づくで、ひとり、またひとりと、仲間をひき剥がしていきました。ただただ頭を垂れるだけの県選出国会議員と、その傍らで、ほくそ笑む権力者という、屈辱的な構図は、かつての琉球処分を想起させ、県民の脳裏に悲しい記憶を刻みました。分断統治は植民地支配の常套とばかりに、県民に、次々と踏み絵を踏ませ、権力は、ついに、その本性を露にしてきたのでした。
しかし、どんなに強権が発動されようとも、私たちは、絶対に、ここで、屈してはなりません。これまで何百年にわたって先人達が、散々、なめさせられてきた苦汁。その苦しみに比べれば、今の私達の苦労は全く大したものではありません。悲しい白黒闘争を繰り返してはならない、もうこれ以上、県民同士がいがみあい、親子や兄弟といった近しい仲までもが裂かれてしまう悲劇はあってはならないのです。
かつて、私達は、自らが持ってきたわけではない「基地」を挟んで、「経済」か「平和」かと、常に厳しい二者択一を迫られてきました。しかし、社会情勢の変化とともに、この両者は、決して相反するものではなくなりました。観光客で賑わう北谷町美浜地区、勢いが感じられる那覇市新都心地区。これらの地区の飛躍的な発展は、かつての基地経済の恩恵を遥かに凌駕していることは誰の目にも明らかです。今や基地は沖縄経済の最大の阻害要因であると言っても過言ではないのです。
私達は、もうこれ以上「基地」を挟んで左右に分かれる必要はないのです。苦渋の選択を強いられる必要もないのです。沖縄では、もはや保守が革新の敵ではなく、革新が保守の敵でもありません。いたずらに保革の対立を煽る手法はもう過去のものなのです。私達は、これまで相反していた「経済と生活」「平和と尊厳」を県民一人一人が手にすることができるようになりました。このことをしっかりと自覚した上で「我々が試される」のならば、今こそ、「負きてぇならん。うしぇーらってぃならん。なまどぅ うちなー」の心意気のもと、誇り高きアイデンティティーにかけて、明確な意思を示さなければなりません。
今、私達に強く求められているは、次の時代を担う子や孫の世代に、禍根を残すことのない責任ある行動なのです。
豊かな文化や伝統、静かに流れる時間、人々の優しい微笑み、これら全てが織りなす独特の空間が、この沖縄には広がります。国内外の多くの観光客を惹きつけ、そのポテンシャルを認めた外国資本は参入意欲を示しています。発展著しい東アジアの中心に位置し、物流ビジネスにも光明が見えてきました。
今や、経済と生活、平和と尊厳の双方を同時に享受することができるようになりました。私達は、今、誰にも恥じることなく、前を向いて堂々と、誇りある豊かさを手にすることができるようになったのです。
成長著しいアジアのなかで、かつての万国津梁の精神を存分に発揮し、豊かな自然や歴史、魅力あふれる文化と伝統に彩られ、大いなる可能性を秘めたソフトパワーで沖縄の未来を拓いていくことこそが、私達の掲げる新たな旗印となるのです。
私の胸中にあるのは、常に、イデオロギーよりアイデンテイティー。 もう一度、この言葉のもとに、県民の心をひとつにし、様々な困難を乗り越えていこうではありませんか。私たち自身の手で、大いなる可能性を秘めた沖縄の明るい未来を拓き、誇りある豊かさを手にしようではありませんか。 平成26年10月21日