翁長知事は、代執行訴訟及び違法確認訴訟における「確定判決に従う」発言に縛られる必要はない。
代執行訴訟及び不作為の違法確認訴訟における、翁長知事の「確定判決に従う」発言。知事はこの発言に縛られる必要はない。理由は次のとおりだ。
まず、不作為の違法確認訴訟の福岡高裁那覇支部(多見谷裁判長)判決は矛盾だらけだ。
戦後70年にわたり基地負担を強いられてきた沖縄の歴史を福岡高裁那覇支部はまったく無視する。戦中は本土決戦の防波堤としての役割を強いられ、戦後は敗戦国日本が独立を果たすために人身御供として米国へ差し出された。安倍政権は沖縄が日本から切り捨てられたサンフランシスコ講和条約発行日である4月29日を主権回復の日として祝い、沖縄の怒りを買ったのはついこの間のことだ。この歴史を無視し、判決は、戦後70年間基地があり続けた事実が、沖縄県の地理的優位性を示すとし、沖縄は基地を受けれるべきだとする。
当HM記事2013:4:28参照)4・28政府式典に抗議する『屈辱の日』沖縄大会に参加しました
さらに、沖縄以外の他府県が基地を受け入れる可能性はないから沖縄が基地を受け入れろと言い。北朝鮮ミサイルノドンのみを取り上げて、沖縄はミサイルが届かない安全地帯という。防衛白書は、沖縄はノドンの射程外であるが、テポドン、ムスダンの射程内だと指摘している。北朝鮮からのミサイル攻撃を避けられるのは「我が国では沖縄などごく一部」などと指摘するのは、何の疑問もなく国の主張に従っただけのこと。判決の言う「沖縄に地理的優位性が認められるとの原告の説明は不合理ではない。」との指摘そのものが不合理なものだ。
森本元防相、梶山元官房長官は、現役閣僚時に、沖縄の基地が動かないのは政治の問題、と指摘した。沖縄の地理的優位性について、証拠調べをすることなく、国の主張のみで認定するのは許されない。
騒音防止協定は形骸化し、爆音被害軽減には役に立たない、という福岡高裁那覇支部の指摘は正しい。しかし、だから辺野古新基地が唯一というのはあまりにも短絡的だ。爆音等の基地被害を普天間から辺野古に移すにすぎず沖縄の基地負担軽減にはならない。さらに言えば、騒音防止協定を締結しても結果を出せない日本政府の無能ぶりの犠牲を沖縄に負わせるというのは許されない。沖縄の基地負担の歴史からすれば当然のことだ。
辺野古新基地は普天間基地の半分の面積というが、その実態は、1200滑走路2本を有し、戦艦着岸可能な巨大港を有する、耐用年数200年の巨大基地だ。まったくもって、沖縄の基地負担軽減どころか、基地機能の強化、基地の固定化につながることは明白だ。ろくに審理もせずに判決を急いだ福岡高裁那覇支部の罪は大きい。
これまでの選挙でたびたび示されてきた、辺野古反対の沖縄の民意までをも否定する判決など聞いたことがない。司法といえども、民主主義の根幹である選挙及びその結果を否定することは許されないはずなのだが。
国地方係争処理委員会の、協議を進めよ、との判断を無意味と切り捨てた判決も許されない。制度そのもの否定であり、司法にそのような権限があるのか疑わしい。
福岡高裁那覇支部が、結論として、この判決内容を当初から有していたとすれば、代執行訴訟の和解勧告(同種訴訟においては極めて異例)自体が、県と国の紛争解決を目的としたものではなく、たんに翁長知事から「確定判決に従う」との言質を取るだけの訴訟指揮だったのではないか、との疑念が湧く。
裁判所の訴訟指揮が、紛争解決に向けたものではなく、当初から国勝訴を目論み、後々のために翁長知事から「確定判決に従う」との言質を取るためだったとすれば、裁判所の和解勧告を信頼し、真摯に和解に向き合った翁長知事を騙したに等しい。詐欺行為だ。 詐欺による意思表示は、取り消すことができる(民法96条)。さらに言えば、意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする(民法95条)。すなわち和解の前提が紛争解決という本来あるべき目的のためではなかったという点が問題だ。
翁長知事は、福岡高裁那覇支部が紛争解決のために和解勧告したと考え、真摯に勧告に従った。ところが、判決は和解条項に定めた国地方係争処理委員会の判断について無意味とした。そもそも、福岡高裁那覇支部自体が紛争解決という意図をもっていなかったということが示されている。
このような状況において、翁長知事は、「確定判決に従う」発言に縛られる必要はない、のである。